あると考えられている。
しかし、疲労と海難という問題を考える時、疲労は安全運航や船上作業を阻害する人間に起こる諸現象と考えた方がよさそうである。その点でDの身体的症状や精神的症状、神経感覚的症状などの自覚症状についての本人の自覚の報告をとりまとめるやり方は、質問の質によって取り扱いが困難とはなるが、疲労時の自覚症状を知る良い方法と言える。

 

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可能な限り信頼性のある標準化した質問調査票として日本産業衛生協会産業疲労委員会撰の調査項目がある。
すなわち疲労の自覚症状として、身体的症状(頭が重い、頭が痛い、全身がだるい、体のどこかがだるい、肩がこる、息苦しい、足がだるい、つばが出ない、あくびが出る、ひや汗がでる)、精神的症状(頭がぼんやりする、考えがまとまらない、一人でいたい、いらいらする、ねむくなる、気が散る、物事に熱心になれない、ちょっとしたことが思い出せない、することに自信がない、物事が気にかかる)、神経感覚的症状(目が疲れる、目がしぶい、動作がぎこちなくなる、足元がたよりない、味が変わる、めまいがする、まぶたやその他の筋がぴくぴくする、耳が遠くなる、手足がふるえる、きちんとしていられない)等の三症状各一〇項目について、その状態の有無を調査するものである。
これまでの種々の調査結果から、疲労時には自覚症状は一般に@訴えの種類が多くなるAその程度がひどくなるB主として精神的、神経感覚的症状に関する特殊な症状が訴えられるC訴えの固定化が強くなり、作業前から症状が訴えられるようになるD訴えの種類のアンバランスが出てくるといわれている。
一方で私たちは同じ仕事をしていても、疲れる人、疲れない人がいたり、好きなことは続けても疲れ難いが、好きでもないことを続けると疲れるということを知っている。従って疲労には個人差があること、同じ個人でも環境や条件によって異なるが、自覚的症状の出現は疲労による生体の破壊を保護する警報的な役割を持っていること、この疲労自覚の有無が労務管理上有用な資料となることは確かである。以上のようなことを考えながら「疲労」を定義すると、疲労とは「仕事のしにくさの継続と蓄積によって、仕事をしたくなくなるときに現れる現象」ということができる。
そして疲労は仕事の種類、人の体力、栄養、熟練、年齢、性別、人の心理的要因や文化的背景の影響、人の昼夜のリズムや季節的影響等の諸要因が複合して疲労となり、肉体的疲労よりも精神的疲労の方がより疲労感を与える。
疲労をその起こり方、負荷のかかり方、持続時間等で分類すると、強度の大きい集中負荷が数分〜数十分間作業し、例えば、筋肉痛、息切れ現象等などに見られる急性疲労、負荷の持続時間が数十分〜数時間によって現れる運転疲れのような亜急性疲労、一日中の負荷の結果として現れる残業疲れや睡眠不足のような日周性疲労、さらに数日〜数カ月の負荷の蓄積結果として現れる肩こり等の慢性疲労に区分される。
急性、亜急性の疲労は適度な気分転換、休憩、休息をとることで回復を図ることができる。疲労が蓄積する日周性、慢性疲労の回復には睡眠、栄養、精神の安定が重要である。
3、 船体運動と船酔い、疲労との関係
船上での労働や生活で陸上と根本的に異なるところは、絶えず船体が動揺していることである。
この船体運動が疲労にどのように影響しているのか、また船体運

 

 

 

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